交響曲一覧
シューベルトの場合、完成した交響曲についていろいろ議論がありますが、最新のドイチュ目録や新全集(NSA=Neue Schubert Ausgabe) では次の8曲を「交響曲」として扱っています。
# | 調 | 作品番号 | 作曲時期 | 楽章 | Fl | Ob | Cl | Fg | Hr | Tp | Tb | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | D | D.82 | 1813 | 4: sf-s-m-f | 1 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | ||
2 | B | D.125 | 1814/15 | 4: sf-s-m-f | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | ||
3 | D | D.200 | 1815 | 4: sf-f-m-f | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | ||
4 | c | D.417 | 1816 | 4: sf-s-m-f | 2 | 2 | 2 | 2 | 4 | 2 | ||
5 | B | D.485 | 1816 | 4: f-s-m-f | 1 | 2 | 2 | 2 | ||||
6 | C | D.589 | 1817/18 | 4: sf-s-f-f | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | ||
7 | h | D.759 | 1822-01 | 2: f-s | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 3 | 旧8番 |
8 | C | D.944 | 1825/1828? | 4: sf*-s-f-f | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 3 | 旧9番;さらに古くは7番 |
楽章のテンポ構造をfast, slow, menuettoで表示
作品を識別しているD.759などの番号(ドイチュ番号)は、Otto Erich Deutsch (1883-1967) が作成した主題目録 "Schubert: Thematic Catalogue of all his works in chronological order", Dent, London, 1951 による年代順の番号です。このカタログは、1951年の初版は英語で出版されていますが、新全集の刊行に合わせて改訂された1978年の第2版はドイツ語になっています("Franz Schubert: Thematisches Verzeichnis seiner Werke in chronologischer Folge", Bärenreiter, Kassel, 1978)。第2版で一部番号が変更されたものがあり、通常は新しい方の番号を用います(例えばピアノ・ソナタの断片である旧D.994はD.769Aなど)。
交響曲を含め主要な作品では新旧ドイチュ番号はほとんど同じですが、第2版では交響曲の通し番号に大きな変更が加えられました。それまで第8番として知られていたD.759「未完成」を第7番に、第9番として知られていたD.944「グレート」を第8番として、旧7番D.729を番号なしにしたのです。この変更は議論と混乱を巻き起こし、大半のレコードやCDはそのまま旧番号を採用していました。新全集版の楽譜が新番号で出版されるに及んで(「第7番 未完成」が1997年、「第8番 グレート」が2002年)、演奏会プログラムには新番号を用いるケースが増えているようです。
“未完成の”交響曲
D.759のロ短調のことではなく、単なる断片やスケッチ止まりだった交響曲も5曲が確認されています。
調 | 番号 | 作曲時期 | 備考 |
---|---|---|---|
D | D.2B | 1811? | Adagioの序奏とAllegro con motoの主部冒頭30小節のみの断片 |
D | D.615 | 1818 | 第6番のあと書かれた2楽章のみのスケッチ。1楽章は重々しい序奏のあと、柔らかなテーマが始まるが、提示部のみで終わっている。もうひとつの楽章はテンポ指示がないが、ニューボールトは調性から見てフィナーレだろうと推測している。 |
D | D.708A | 1820c | 3楽章のスケルツォがほぼできていたが、トリオはわずか6小節のみで中断、1,2,4楽章ともに提示部のスケッチのみで終わっている。ニューボールトは、部分的に残されているオーケストレーションを試みたスコアから、遠い調に転調する主題で金管楽器の限界を感じたのも一因ではないかと推測している。スケルツォは《グレート》を予感させる出来映え。 |
E | D.729 | 1821 | 旧目録で7番と呼ばれていた曲で、全曲のスケッチは完了していた。シューベルトはピアノスケッチを用いずに直接総譜を書きはじめたが、途中からは主旋律(と一部バス)のみとなり、約1300小節に及ぶ全曲のうち、約950小節はそうした単旋律の状態のままだという。総譜によれば、4本のHrと3本のTrbが用いられていた。曲想はロッシーニの影響を感じさせながらもシューベルトらしいもの。ニューボールトのほかワインガルトナーによるオーケストレーションもある。 |
D | D.936A | 1828? | シューベルトの最期の年に着手された3楽章のスケッチで、第10番と呼ばれることもある。1楽章は規模の大きなソナタで、第2主題はいかにもシューベルトらしい。2楽章はやや神秘的な感じで始まる、「冬の旅」的な世界。3楽章はスケルツォだが、2/4拍子に6/8拍子が重なるロンドのようなものになっており、ニューボールトは「作品を書き進めるにつれ、この楽章はどんどんフィナーレのようになっていった」としている。ここではカノンやフーガ、2つの主題を同時にならすなど、対位法的な書法への志向が見られる。 |
これらを演奏したCDなどの関連情報は、当サイト音楽雑記帖の「シューベルトの“未完成”交響曲」を参照。
参照文献
- 小林宗生、門馬直美「交響曲(作品解説)」, 音楽之友社編『作曲家別名曲解説ライブラリー17. シューベルト』, 1994-11-10, 音楽之友社, ISBN:4-276-01057-8
- 金子建志「シューベルトの〈未完成〉各種クリティーク版と演奏を検証する」, 同『交響曲の名曲・1』所収, 1997-11-10, 音楽之友社, ISBN:4-276-13074-3
- マーティン・チューシッド編、谷村晃訳『シューベルトの交響曲ロ短調未完成』, ノートン・クリティカル・スコア・シリーズ, 1981-12-20, 東海大学出版会
- ロジャー・ノリントン, シューベルト交響曲第9番の演奏ノート, A booklet accompanying the CD of Schubert's Symphony No.9 by Norrington, 1990
- Brian Newbould, The Restration of Schubert's Symphonic Works, A booklet accompanying the CD of Schubert's Complete Symphonies by Marriner, 1984
- Brian Newbould, Schubert and the Symphony: A New Perspective, 1992, Toccata Press, ISBN:0-907689-27-2