ネットワークでつながれば...
SOHOのためのパソコン講座 - 4 -
一人しみじみ飲むのも悪くはないが、大勢でにぎやかに盛り上がれば酒の楽しみは大きく広がる。コンピュータも同じことだ。せっかくの情報を自分のパソコンにとどめておいてはもったいない。ネットワークでつながれば、自分の考えを多くの人に知ってもらえるだけでなく、豊富な情報の海が待ち受けている。ましてそれが世界につながっているとなれば...
通信でネットワークする
前回はエディタというごく基本的なソフトの話をした。一般的な入門コースならワープロの使い方や、表計算、データベースといったビジネスソフトの話に続いていくのだが、ここではそういうものはすっ飛ばして、通信ネットワークを取り上げる。ビジネス系のソフトは必要になってから考えても遅くはないし、無理に個人で導入しなくてもよいかもしれない。しかし通信は、初心者だろうが経験者だろうが、今すぐにでも始めるべきものだ。これこそがパソコンを宝の山に変身させる魔法の杖だからだ。
コンピュータはもともと通信やネットワークとは極めて縁が深い。貴重な財産である高性能コンピュータを有効活用するために、遠隔地からでも通信回線を経由して利用する方法が考案された。研究者たちは情報交換のためにインターネットを育て上げる。大型機やワークステーションの世界では、コンピュータ同士がネットワークでつながっているのはごく普通のことなのだ。
パソコンは、個人が趣味の道具として使うという形で発展したため少し事情は異なる。それでもパソコン通信の普及やインターネットの急成長を見ると、いよいよネットワークの時代に入ったことを実感せずにはいられない。
なぜネットワークか
情報というものは流通し、交換されることによって価値を増す。マスコミが影響力を持っているのは情報を大量に流通させる機能を独占しているからだし、学会で研究者が発表するのも情報を交換し、価値を高めることが目的だ。逆に、どんな優れた情報を持っていても、発表することができなければそれは自分で消費する以外に価値を持たないことになる。
パソコン上の個人の情報も同じことだ。コンピュータを単独で使う限り、その情報は自分の趣味の域からなかなか脱却できないだろう。あるいはチラシを印刷して配布するような、地域的に限定された情報発信以上のことは難しい。それが、電話線につなぐとまったく別の世界が開けてくる。情報が足を持って走り出すのだ。レーシングコースのなかで走るのと、公道に出てドライブするのとの違いだといえば分かりやすいだろうか。
パソコン通信とインターネット
コンピュータのネットワークと言えば、思い浮かぶのはパソコン通信とインターネットである。両者の違いをここで詳しく述べるゆとりはないが、簡単に言えば前者は中心となるコンピュータがサービスを提供する管理されたネットワーク、後者は中心がなく誰もが情報の受信者であると同時に発信者でもある自由なネットワークということになろうか。パソコン通信はデパート、インターネットは大きな繁華街全体というふうに考えてもいい。パソコン通信のサービスは良く整備されていて便利だが、インターネットには何でもありの魅力がある。
電子メールとメーリングリスト
ネットワークで可能なことはたくさんあるが、最も基本的でかつ奥が深いのが電子メールである(ソフトウェアにおけるエディタのようだ)。郵便に比べて圧倒的に手軽でスピーディである上に、電話のように相手の時間に割り込んだりしない。さらに改めてメモを取ることなく記録が残っていくので、不精な人間でも要件を忘れるということがなくなる。利用してみると電話や手紙を使っている時に比べてはるかに多くの人と密度の濃いコミュニケーションが可能なことに気が付くだろう。
電子メールは基本的に1対1のやり取りであるが、これを複数のメンバー相互の情報交換に拡張したものがメーリングリスト(ML)である。ある代表のアドレスにメールを送ると、リストに登録されたメンバー全員にそのメールが転送されるというものだ。簡単な仕組みではあるが、グループでのコミュニケーションには大きな威力を発揮する。利用者を限定できるので、かなり突っ込んだ内容の意見交換も可能だ。
インターネット上には、公開・非公開取り混ぜて実に様々なテーマによるMLが存在する。自分の関心領域のMLに参加すれば、そこで交わされる議論から多くのことを得られるに違いない。一歩進んで得意先や優良顧客を対象としたMLを主宰すれば、DMを送ったりする以上にきめ細かい情報提供が出来るだけでなく、双方向の意見交換を通じてサービスの改善や新しいビジネスへの発展も期待できる。
ホームページとオンライン販売
インターネットがここまでブームになった原動力は、なんといってもWWW(World Wide Web)によるところが大きい。マウスのクリックだけで世界の情報を自在に巡るのは、確かに体験してみると時のたつのを忘れる魅力がある。
さらに、WWWはごく簡単な書式をおぼえるだけで 誰でも情報発信が可能になる という点が重要だ。情報さえ手元にあれば、まさに世界に向かって誰もが発言できるのである。これは、従来マスメディアに独占されていた力が、庶民にも解放されたということにほかならない。新聞や雑誌の手を借りなくても、全国の、世界のまだ見ぬ読者にメッセージを送れるのだ。
と言っても、自分の写真やペットの紹介を公開するだけでは、無意味とは言わないまでも遊び以上のものではあり得ない。やはり、初めに情報ありきである。そのためにも、第1回で述べたように、まずは身近なところから情報を集め、蓄積していくことが大切だ。
ホームページをうまく使えば、オンラインでの商品販売という可能性も開けてくる。アメリカでは珍しいワインを扱うホームページが成功を収めるなど、将来の方向をうかがわせる事例も出始めているようだ。この分野はまだ発展途上であり、今すぐ取り組まないと落ちこぼれるなどということは決してない。ただ、数年後の展開に備え、いまから少しずつ情報をインプットしていくのはとても重要なことだろう。
(初出:「酒販ニュース」96年5月11日号)